ひとくちに「クリエイター」といっても、描き出すクリエイションは色とりどり。その背景には、バッググラウンドや譲れないこだわり、そして個性がある。
私たちが愛する「あのイラスト」は、いったいどのような思考回路をたどり、どのような技術によって生み出されているのだろうか。
クリエイターたちが歩んできた人生に焦点を当て、自分好みの色でクリエイター人生を彩ってきたヒストリーを明らかにしていく連載「人生のふであと」。
記念すべき第一回目のゲストは、イラストレーターのそのさんです。
そのさんがイラストレーターとして生きていくターニングポイントになったのが、セツ・モードセミナーで過ごした1年間。閉校の知らせを受け、「いつか通ってみたい」という思いを「いま実現させるしかない」と単身上京しました。
それから数年が経ち、現在はおよそ2.5万人のSNSフォロワーを抱える人気イラストレーターに。彼女はいったい、どのような人生を歩んできたのでしょうか。
これまで語られることのなかった、そのさんの“ふであと”をたどっていきます。
絵を描くことだけが、私の「得意」だった
──── そのさんがイラストレーターを目指したきっかけについて、教えてください。
小さな頃から、絵を描くのが好きだったんです。幼稚園の先生が「絵を描くのがうまい」と私の個性を見出してくれて、それ以来ずっと絵を描いてきました。
高校進学時も、イラストやデザインを学べる学校を選んでいます。ただ、才能があったというより、得意だといえることが絵を描くこと以外になかったというのが本音です。

そうはいっても、絵を描いている時間だけは苦痛がなかったので、「いずれは絵を描くことで生きていけたらいいな」なんてぼんやりと考えていましたね。
──── 高校を卒業した後に、イラストレーターとしてのキャリアをスタートされたのですか?
イラストレーターとしてお仕事をさせていただくのは、キャリアのずっと後なんです。
高校卒業後は専門学校に進学してイラストレーションを学び、ファーストキャリアには製版会社を選びました。
当時はイラストレーターになりたいとは思っていたものの、どうやってそれを職業にすればいいのか分かりませんでしたし、一度は社会人を経験してみたいという気持ちもあったので、いきなり専業にしようとは思えなかったんです。
でも、このときもずっと、イラストを描いていました。「誰かの目に留まったらいいな」と思いながら、描いた絵をSNSにアップする日々を送っていたんです。フォロワーは知り合いだけで、20名程度でしたが。
ただ、たまにイラストを拡散してもらえることはあったんです。どなたかが私のイラストを見つけてシェアしてくださり、それがきっかけで多くの方に見ていただきました。
とはいえ、自分の描いた絵がお金になるイメージは持てていなくて。多くの方に見てもらえて嬉しいとは思いましたが、創作活動はあくまで趣味の延長線でした。
夢を諦めきれず、仕事を辞めて単身上京
──── 趣味だった「イラストを描くこと」は、どのようにして職業へと変わっていったのでしょうか。
ターニングポイントは、仕事を辞めて、新宿にあった美術学校「セツ・モードセミナー」に通ったことです。
まだ専門学生だった頃、イラストレーターとして活躍されている方に、自分が描いた絵を見ていただける機会がありました。そのとき、私の描いた絵を見てくださった方が、「長沢節さんのような絵を描くね」とおっしゃったんです。

私は長沢さんを存じ上げなかったのですが、ファッション・イラストレーションの先駆者であると知り、実際に彼が描いたスタイル画を見てみたところ、とてもかっこよくて素敵で。以来、彼が立ち上げたセツ・モードセミナーに、いつか通ってみたいと思っていました。
そして、その「いつか」は突然に訪れます。会社員として働いていたある日、「閉校」の知らせが届いたのです。
当時は、地方に住むただの会社員です。東京に暮らしたことはないし、生活に余裕があるわけでもありませんでした。いきなり会社を辞めて学校に通うのは、非現実的です。
でも、簡単に夢を諦めることはできなくて。
一年間だけでも長沢さんのエッセンスを受け継ぎたいと思い、悩みに悩んで会社を退職。東京に引っ越す準備を整えて、セツ・モードセミナーに入学しました。
私にとって、セツ・モードセミナーに入学したその日が、本当の意味で絵に打ち込む日々の始まりです。

セツ・モードセミナーは、いわゆる授業のような、手取り足取り教えてくれる環境ではありませんでした。
モデルさんと向き合い、自分なりに感じながら描き、手を動かしながら学んでいくんです。教えてほしいことがあれば先生に質問しにいき、アドバイスをいただいて、画力を鍛えていきます。
私にとってこの時間は、とても貴重なものでした。見て学び、手を動かして技術を身体に染み込ませていくことで、自分のスタイルを確立していくことができましたから。
学校は一年で閉校してしまいましたが、ここで講師を務めていた先生方が同校の流れを受け継いだ「Sアトリエ」というアトリエを設立され、私はここにも通ったので、合計で3年間イラストを学んでいます。
この3年間がなければ、「イラストレーター・その」が生まれることはありませんでした。
「その」として生きていくまで
──── イラストレーターとしてのお仕事は、どのようにして獲得されたのでしょうか。
学生をしながら描いたイラストをSNSにアップしていたところ、たまたまそれを見かけた方が、私にお仕事を依頼してくださったんです。
初めてのお仕事は、楽曲のアルバム制作でした。
イラストレーターとして生きていく、つまり収入を得ることを目標にしていたのですが、いちばん嬉しかったのは、結局お金をいただけたことではなくて。何者でもなかった自分のイラストが、形になって世の中に送り出されることが、なにより嬉しかったのを覚えています。

また、お仕事をいただいたことで、自分の実力不足にも向き合うことになりました。たった一枚のイラストを描くだけでも膨大な時間がかかりましたし、リクエストに対して納得できるようなイラストを描くのは想像以上に大変だったのです。
その日から今日まで、ずっと自分の実力のなさと向き合ってきました。周りを見渡せば、卓越した画力を持ったイラストレーターがたくさんいて、私はまだまだだと痛感させられます。
画力によって表現できる幅は大きく変わるので、私はまだまだトレンドについていけないことがありますし、自分のテイストが、果たして世間のニーズと合致しているのか不安になることもあります。
イラストレーターとして第一線で活躍するには、自分らしさを追求しつつも、ニーズに応えられる柔軟さも必要なので、私にとっては毎日が勉強の日々なんです。
──── 悔しい思いをすることがあっても、それでも諦めずにイラストを描き続けられるのはなぜでしょうか。
もう、意地ですよね(笑)。
仕事を辞めて、そこから3年間も学生をやり直して、「才能がないので諦めます」なんて言えません。

思い返せば、私にはずっと「絵」しかありませんでしたし、これからもきっとそうなんです。
自分の作品に自信があると言えば嘘になりますが、それでも私にお仕事を依頼してくださる方がいらっしゃる限り、描くことをやめてはいけないと思っています。
いつか、イラスト関係のお仕事がしたい
──── R11Rに所属するクリエイターとして、これまでに担当した案件で印象に残っている仕事を教えてください。
クリエイターとして参加させていただいた、「超絵師展~IFの楽曲世界展~」が印象に残っています。
ボカロPのオーダーシートをもとに、有名ボカロ楽曲を絵師が自分なりの解釈でイラストとして描き下ろすものなのですが、すでに完成された世界観を壊さず、さらに自分なりのエッセンスを付け加えるのは、イラストレーターとして腕が試される貴重な機会でした。
やはり、ただイラストを描くのとは、わけが違います。ファンの方がいらっしゃるわけですから、みなさんの期待を裏切ることは許されず、これまでとはまた違った緊張感を持って筆を走らせました。
結果的に、みなさんから好意的な声をいただけて嬉しかったです。
R11Rさんとの仕事は、クライアントと私だけで完結するこれまでの仕事とは異なり、他のクリエイターさんたちも一堂に会する案件が多かったので、一つの案件から得られる学びの量がとても充実していたように思います。
楽しさ、嬉しさ、悔しさ……いろんな感情が詰まっているんですよね。お仕事をいただきながら、それでいて成長できるので、とても感謝しています。

──── 今後、挑戦してみたいお仕事についても教えてください。
キャラクターにまつわるお仕事に挑戦してみたいです。いつか原案に挑戦できたら……と夢みていますね。
でも、夢を叶えるためには、もっともっと頑張らなければいけません。
クライアントさまに納得していただけるイラストを描くのも大切なことですが、クリエイターとしては、まずは自分が納得できるイラストを描けるようにならないといけません。
活躍されているイラストレーターさんの作品を見て、「私にはできない表現だな」と悔しい思いをすることも多いので、自分が納得いくレベルに達するまで筆を止めないでいたいと思っています。
──── 最後に、イラストレーターを目指している方に向け、メッセージをお願いします。
私自身、まだまだ未熟なので、偉そうなことは言えません。
ただ、「描きたい」という思いに素直で居続けられれば、機会をつくりだせるのではないかと思っています。
私はこれまで、とにかく描き続けてきました。イラストをアカデミックに学んだことはないのですが、描き続けて、SNSにアップし続けて、お仕事をいただくことができました。
まだ道半ばで、夢に向かって描き続ける毎日が続いていますが、この日々の延長線上に、夢が叶う日が来ると信じています。
私もきっと、イラストレーターを目指しているみなさんと同じ気持ちです。私はこれからも描き続けるので、みなさんと一緒に頑張れたらな、と思っています。